AdlersNest

製作ガイド(撮影・文/高石 誠)



(1)

実際にキットを作ってみましたので、一つの参考例としてご紹介します。画像は製作に使ったエ

ポキシ接着剤と釣り糸です。エポキシ接着剤は接着時にはみ出したら初期硬化段階までなら

Mrカラーのシンナーを含ませた面相筆で綺麗にふき取れます。瞬間接着剤だとアンテナの接

合部の精度が高くすき間が少ないので、凸部を凹部の所定位置まで差し込む前に硬化して差

し込みきれなくなります。また、すき間が少ないとは言っても部品を接合するとわずかに遊びが

生じますから、アンテナ同士が一直線と成るよう組むためには、接着剤が硬化するまでに調整

が必要です。その点でも硬化まで時間が取れるエポキシ接着剤が有効です。


エポキシは30分硬化型を使いますが、夏季で気温が高いと実際は15分程度で硬化してきます

から、はみ出した接着剤の除去とアンテナを一直線にする調整には都合良い可使時間タイプ

です。それ以下の短い時間タイプだと作業をやりきれなくなったり、硬化後も柔らかさが残り接

着の強度が低くなる傾向もありますから注意が必要でしょう。


アンテナを引き倒すヒモに使う釣り糸は金属から合成樹脂まで多種があります。今回は樹脂の

PE(ポリエチレン)タイプで0.3号、 太さ0.09mmを使ってみました。ごく細い繊維をよってある物

で、柔軟さと引っ張り強さ、クセの付きにくさがあり、一般的なナイロン樹脂製の釣り糸は温度

や湿度に影響されて伸びたりする場合があるのに対し、PE製は影響が出にくいと言われてい

ます。また太さについては下の(5)にある写真を元に割り出すと実物は5〜6ミリ程度に成るよ

うで、1/35換算では今回使ったより太いものとなりますが、仕上げ段階で釣り糸に塗料が乗っ

て太くなることや、模型的見栄えを考慮して細めとしてみました。




(2)

今回は記録写真のシャーマンで多く見かける3本の組み合わせ使用例を再現するため、MS-

50、51、52を使用します。アンテナ部品同士を接着する際は、接着剤が半硬化し始めるぐらい

のタイミングで平らな面の上で転がすと一直線になっているか否かがわかります。転がしても

つなげた部品同士がぶれ無くなるよう調整すると良いでしょう。


そしてアンテナ部品の接合が終わったら、ヒモで引き倒される際のアンテナが曲がった姿を再

現するため、意図的に曲がりクセを付けます。この時アンテナをピンバイスにはさんで固定して

持つことで、クセを付けながらアンテナが回ってしまい結果的に3次元的な乱れた曲がりとなら

ぬよう配慮するのがポイントです。クセは固めのボール紙を敷いて、筆の木の柄で押して少し

づつ様子を見ながら付けます。ゴムシートを使ったりすると曲げられますが、シートが柔らかす

ぎて微妙なクセが付けにくいでしょう。


また、この曲げクセは、ヒモをアンテナのどこの位置へ結ぶかによっても変わってきます。今回

は(4)の図のように、アンテナ基部から2本目のつながったジョイント部直上で止めた際の曲が

り方ですが、MP-48基部と1本目の接続部の直上でヒモを止めている場合はアンテナ本体がほ

とんど曲がらずに、一直線状態で倒れているケースもあります。またアンテナ先端部を機関室

上のフック等と結んでいる場合は接続したアンテナ全体が弓なりにしなっている様子もありま

す。ですので、作り手の好みやセンスで曲がり方を選ぶと良いでしょう。




(3)

MP-48基部の中へ通す曲がった状態を保持する芯材は、今回は0.8oの真ちゅう棒を曲げて

先端を尖らせ、1.0oのパイプをはめてそれをキット付属の半田線がわりに入れています。そう

することで基部が曲がった状態ながら、15〜20度程度の範囲の角度が可倒するようになり、わ

ずかに戻ろうとするテンションを生じさせることが可能になります。すると後で張った釣り糸がピ

ンと張った状態を確実に表現出来ます。釣り糸で引っ張られるプラ部品を強いテンションで引

いて傷めぬよう配慮しながら、なおかつ実物で見られるようヒモを直線状態に保つための工夫

を行ってみました。こうすれば不用意にアンテナやヒモをさわってしまってもアンテナが変形し

たりプラ部品側を破損したりする恐れが軽減される点でもメリットが得られます。また、この基

部の組み立てでスプリングの接着固定にもエポキシを使っています。




(4)

実車の米軍ジープマニュアルに記載された、アンテナをヒモで引き倒す際の「タイダウンキット」

の使用説明図の一部分です。(5)の写真にあるアンテナへのヒモ接続金具と絶縁用のガイシ

を使うことが指示されていますが、実例ではこれらの使用を省略していると見える例も少なくあ

りませんから、模型では省略しても問題ないでしょう。




(5)

実物の「タイダウンキット」一式です。ヒモは画像のように白い色が一般的なようですが、オリー

ブドラブ色の物も存在するようです。茶色の絶縁用ガイシも複数種類あるのがわかります。ま

た上に並んでいるアンテナジョイント部分の塗装色に対応する色の金具は、アンテナジョイント

部を接続したあとで、アンテナがまわって緩まないようにするため、ジョイント部を締め付け固

定するためのクランプで、色が塗られることで使用箇所を間違えないように配慮されています。

これも実車では確認できない例が多いですし、使われたとしても判別できないような小さい物な

ので、模型上では省略してかまわないでしょう。




(6)

0.1o厚の洋白板を細切りして細工したクランプ部品に、マスタークラブのレジン製リベットの頭

へマイナス溝をナイフで入れてマイナスネジにした物で、(4)と(5)のマニュアル画と実物画像

の左上にある銀色の金属で出来た、タイダウン用のヒモ接続金具を再現した姿のクローズアッ

プです。この部品の組み立てとアンテナへの接着固定も接着剤はエポキシを使っており、結果

的にエポキシはすべての部品の接着へ使用しています。また、上でも述べましたが、この金具

は使用せず、直接ヒモをアンテナと結んで引き倒しているような姿も見られますから省略しても

かまいません。




(7)

完成した姿を後方の上から見た姿で、3本アンテナの曲がり方のニュアンスがわかると思いま

す。基部側の一本目となるMS-52がヒモに引っ張られて一番強く曲がっていますが、よく見ると

2本目のMS-51と、3本目のMS-50も微妙にしなっている様子がわかるでしょう。実物で3本組

みの場合、ヒモで引っ張られて曲がったよりも先の2本のアンテナは一直線となっている例があ

りますが、4本以上接続したアンテナを引き倒している場合はヒモで引っ張られないアンテナも

自重で微妙に曲がった姿があるので、その姿のイメージを多少模型演出や造形美的な観点か

ら取り込んでみました。このあたりのさじ加減は、作り手の好みや模型表現への考え方次第で

判断すれば良いと思います。




(8)

以下の各画像は別角度からの姿です、参考にしてください。








■塗装完成の例を追加しました■


上記の工作を終え、後日、塗装完成させてみましたので新たにご紹介します


(1)

以前製作したタスカのM4A3E8に組み込んで塗装完成させた姿です。アンテナ実物はロッド部

分が黒い色で塗られ、接続部は明るい原色系が塗られているのを再現しました。接続部の色

はアンテナごとに規則があり、今回使用したMS-50〜52は、上方側から順番に「ライトグリー

ン」、「イエロー」、「レッド」、そしてMP-48と接続する部分を「ライトブルー」に塗りわけていま

す。ちなみに今回使用しなかったMS-53を使う場合は、MP-48との接続部が「アイボリー」にな

ります。模型上は、接続部同士の色の明度や彩度を若干変えてやり(下記ページの実物の資

料でも色ずれのある様子がわかります)、アンテナごとの存在感の違いを多少強調していま

す。また黒いロッド部分は、模型上はキャタピラに塗るようなグレー色で塗装しています。なお、

アンテナ型式ごとの実物規則性にしたがって接続部の色を塗り分けるのは少々面倒に感じる

かもしれませんが、ごく単純な規則性ですし、この姿が他に無い米軍アンテナの大きな特徴と

もなっていますから、塗装再現すればより効果的でしょう。







(2)

アンテナ接続部の明るい原色の姿は、塗装前は変に目立って模型としてのリアル感を損ねる

かと危惧していましたが、実際に仕上げたM4A3E8の姿を見ると、戦車模型全体としては対比

的にごく小さな面積でそれほど目立たず、むしろほど良いアクセントになって新鮮でした。その

姿の景色が意外にも良い感じだったので、今度はアンテナを垂直に立てた姿はどうなるかと興

味がわき、以下のようにやはり以前製作したM4A1へつけて仕上げてみました。この工作では

スプリングの中に芯材を入れず、フリーのままにしていますので、作業中など細いアンテナへ

不注意で触れてしまってもプルンと逃げて戻ってくれますから、変形破損の心配がなくなるメリ

ットも生じたのは大きな魅力でした。また仕上がった姿を見ると、ドイツ軍のアンテナと比べてさ

らに長さがあり、垂直に立てた姿もなかなか魅力的なことがわかると思います。ちなみに大戦

当時の記録写真を観察すると、アンテナ本数はM4系も含めた戦車の場合は3本使用例が圧

倒的に多く標準のようでしたが、M3軽戦車やM10駆逐戦車などでは複数車両が並ぶ姿で2本

使用している例や、前線の運用で破損紛失したらしく3本立てた車両の隣に1本しか立てていな

いM4の姿の例もありました。戦車以外の車両では、おそらく指揮通信車両でしょうが5本以上

使用している例もあるので、模型では実例にとらわれず好きな本数で組んでみても良いでしょ

う。そして今回ご紹介したよう、既に作って完成させた米軍車両の模型へ追加としてこのアンテ

ナキットを施してみると、思うほか車両の姿の印象が変わる面白さを体験できますから、そん

な楽しみ方もおすすめします。